運動とタンパク質摂取
タンパク質は三大栄養素のひとつで、体を構成する成分です。運動をしている場合は通常よりもタンパク質摂取量を増やす事が推奨されています。
運動をしている場合のタンパク質摂取の意義
1運動後の組織の損傷の回復に対する役割
運動後に起こる筋損傷の回復に対する役割でタンパク質が有効です。
2筋肥大をはじめとするトレーニング効果を引き出すための栄養素の供給
継続的な筋力トレーニングは筋タンパク質の合成と分解の差をプラスにすることで、筋肥大を引き起こします。しかし、筋力トレーニングは筋タンパク質合成を高めるが、同時に筋タンパク質の分解も高めます。その為、トレーニング後の栄養摂取がないと、プラスになりません。運動後のタンパク質摂取はトレーニング効果を発揮する為には欠かせません。
3エネルギー源としての役割
運動中の主要なエネルギー源は糖質と脂質ですが、タンパク質の構成成分であるアミノ酸も運動中のエネルギー源として使われます。エネルギー消費量全体に対するアミノ酸由来のエネルギー割合は、他の栄養素の摂取状況や運動強度などに応じて異なりますが、4~10%になると言われています。その為、運動量が多い持久運動などは運動中にアミノ酸がエネルギーとして多く使われ、アミノ酸消失量が多くなります。これらの理由により、運動後の十分なタンパク質摂取が不可欠です。
運動をする場合の一日のタンパク質摂取推奨量
American College of Sports Medicineのガイドライン
1日に1.2~2.0g/kg体重のタンパク質摂取が推奨されています。これらの数値は窒素出納法と呼ばれる、体組成を維持するために必要なタンパク質摂取量を算出する方法を用いて求められています。しかし本来であれば、運動のパフォーマンスやトレーニング効果を最大化する為に必要な量を求めるべきであり、窒素出納法により求められた推奨量が運動パフォーマンスやトレーニング効果の最大化に最適であるかは明らかではありません。
タンパク質、アミノ酸摂取推奨量の評価法として、指標アミノ酸酸化法というタンパク質代謝評価技術が開発されました。この方法は全身のタンパク質の合成と分解の差を最大化する為に必要なタンパク質摂取量を評価する方法で、窒素出納法によって求められたタンパク質量が過少評価されている可能性を見出しました。そこで再検証がされています。
指標アミノ酸酸化法を用いて、ボディビルダーのタンパク質摂取推奨量が2.2g/㎏体重/日であることが報告されました。窒素出納法で算出された推奨量は約30%過小評価されていた可能性があります。
長期的な筋力トレーニング期間中の筋肥大に対するタンパク質摂取の効果を検討した研究では筋肥大を最大化するためのタンパク質摂取推奨量は2.2g/㎏体重/日であることが報告されました。
このように指標アミノ酸酸化法で得られた数値と長期的に筋肥大を評価した試験結果が一致し指標アミノ酸酸化法はより正確に運動をする場合のタンパク質摂取推奨量の評価が出来る可能性を示しています。
持久運動選手対象の場合
窒素出納法では1.2~1.4g/㎏体重/日で、指標アミノ酸酸化法では1.8g/㎏体重/日でした。
次にタンパク質摂取量の違いが持久的パフォーマンスにどのような影響を与えるか検討しました。4日間の持久的トレーニング期間中に1.2g/㎏体重/日のタンパク質を摂取した場合よりも1.8g/㎏体重/日で摂取した方が、4日間のトレーニング期間前後で測定した5㎞の走破タイムに改善傾向が見られました。この結果、指標アミノ酸酸化法で算出された推奨量の方がパフォーマンス改善に適している可能性が示唆されました。
タンパク質摂取タイミングと1回の摂取量
運動後に摂るタンパク質のタイミングを見てみましょう。タンパク質は運動直後に摂取した方が運動3時間後に摂取した場合に比べて、タンパク質の合成と分解のバランスの改善に有効でした。筋力トレーニング後の12時間の間に80gのタンパク質をどのように分けて摂取するのが筋タンパク質合成を最大化するのか検討しました。
①40gを6時間ごとに計2回
②20gを3時間ごとに計4回
③10gを1.5時間ごとに計8回
に分けて12時間の筋タンパク質合成に対する効果を評価しました。
結果、20gを4回摂取する摂取パターンが最も高い筋タンパク質合成を示しました。これは1回あたり20g以上のタンパク質摂取では筋タンパク質合成促進作用が飽和するという事を指します。また1回あたり20g以上を3時間ごとに摂取する事が望ましい事を示唆しています。つまり、3食の食事に加えて、補食の重要性が示唆されます。一般的に朝食、昼食、夕食におけるタンパク質の摂取量は夕食が一番多く、次に昼食、最後に朝食の順が多いと言われています。特に朝食は筋タンパク質合成を最大化するのに必要な20gを下回っている事が多いとされています。そこで、3食均等に約30gのタンパク質を摂取した場合、夕食に偏ってタンパク質を摂取した場合に比べて、一日の筋タンパク質合成が高い事が見出されました。このように朝食から十分なタンパク質を摂取する事が筋タンパク質合成を最大化する為に重要な可能性があります。
アミノ酸組成の重要性
タンパク質の種類の違いによって筋タンパク質合成促進作用が違うことが知られています。動物性タンパク質は植物性タンパク質に比べて、筋タンパク質合成の刺激作用が高いと言われています。これはタンパク質に含まれるロイシン量に依存すると考えられています。ロイシンは筋タンパク質合成の制御因子であるmammalian target of rapamycinを活性化する作用がある為です。しかしロイシンを含む分岐鎖アミノ酸のみの摂取は、運動後の筋タンパク質合成を高めるがその高まりはタンパク質を摂取した場合に比べて低くあります。これはロイシンを単独で摂取した場合に起こります。他の分岐鎖アミノ酸及び、その他の必須アミノ酸の血中濃度の低下が筋タンパク質合成を低下させている可能性があります。そこでロイシン単独の摂取ではなく、その他の必須アミノ酸を混合して摂取する必要があります。ロイシンの割合を高めた必須アミノ酸混合物(ロイシン35%)と通常のロイシン比率の必須アミノ酸混合物(ロイシン18.7%)の筋タンパク質合成に対する影響を比較したところ、ロイシンを交配合にした必須アミノ酸組成物の方が筋タンパク質合成を高める事が示されました。
以上の事から、国際スポーツ栄養学会では、摂取機会ごとにタンパク質の質、つまりアミノ酸組成を考慮する事を推奨しており特にロイシン700~3000㎎、及び必須アミノ酸10gを含むように摂取する事が重要であると提唱されています。
最後に
運動時のタンパク質摂取量は、様々な見解があり、終わりが尽きません。国より異なったり、競技や負荷により異なったりしますが、およその目安になるエビデンスが確実にとれてはきています。タンパク質不足にならないこと、そしてタンパク質過剰にならないこと、その両方が大切で、どちらも疾病リスクを高くするものです。運動は健康、美容促進、維持にとって欠かせないことではありますが、その分、リスクも多くなります。がむしゃらに動けばよいと言うことではなく、せっかく運動に取り組むのだから、無駄な事にならず、キチンと健康、美容効果を得るために、食事を見ていく事は非常に重要な事と言えます。
食事と病気の関係性
食べ過ぎによる疾病リスク
食べ過ぎで、エネルギーの摂取過剰となり体脂肪の合成、蓄積が進み、肥満になる。特に腹空内脂肪蓄積型肥満では門脈(腸から肝臓へ伸びている静脈で腸から吸収された栄養が通るところ)周辺に脂肪が蓄積する。すると、膵臓から分泌されるインスリンの作用が低下するインス リン抵抗性が出現し、2型糖尿病を発生しやすくする。その一方で、インスリン抵抗性の代償として高インスリン血症が起こり、インスリンの作用によって様々な生活習慣病が発症する。例えばナトリウムの腎臓での再吸収を促進したり、インスリン自体が血管壁細胞の増殖を促進し、肥厚、内腔の狭窄をもたらし、高血圧症を引き起こす。エネルギーの過剰摂取と高インスリン血症により、中性脂肪やコレステロールの合成が亢進し、脂質異常症を発症させることにもなる。 過食により肝臓での中性脂肪やアポ蛋白の合成が促進されると、VLDLの流出が促進されるが、この際に、アポ蛋白の供給量が不足すると中性脂肪が蓄積して肝臓内に脂肪滴が出現して脂肪肝も形成される。
食の欧米化による疾病リスク
戦後から今日まで、日本人は欧米食の影響を強く受け、米の摂取を減少させ、副食を増加させてきた。その 結果、脂質、動物性脂質、動物性タンパク質が増大し、炭水化物や食物繊維等の摂取量が減少した。これらは、戦前、戦後にみられたタンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルの不足を解決するために有効であった。ところが、近年見られるような極端な欧米化は、肥満、脂質異常症、糖尿病、動脈硬化、大腸ガン、便秘症等の生活習慣病の誘因となったのである。 特に脂質の過剰摂取は、脂質異常症や動脈硬化の発症に関与している事が多くの調査、研究により明らか にされている。
サラダ油はご注意!
脂質異常症には、様々なタイプがあり、日ごろの食事が油料理や脂身のついた肉、バターなどを好んで食べていると起こるものやコレステロールの増加によりみられるものなど様々である。コレステロールは飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の摂り過ぎが血清コレステロール値を上昇させ、植物油の多い不飽和脂肪酸はコレステロール値を低下させる作用があると言われており、今でも植物油を増加することが推奨されていたりする。しかし植物油を増やすことが循環器系疾患の予防に有効ではないことも分かってきている。サラダ油に多いリノール酸は摂り過ぎると、HDL-コレステロールを低くする働きがあり、動脈硬化のリスクを高める。但し、オリーブオイルなどに多いオレイン酸は血清コレステロール値の低下作用があり、HDL-コレステロール値は低下させない。
朝は太りにくい時間帯、好きなものを食べるチャンス!!
ヒトは分けて食べる動物
動物により、食べ方はそれぞれ異なる。例えばライオンは1日1食をまとめ食いする。ヒトは1日に何回も分けて食事を摂る。ヒトがライオンのように1日1食でまとめ食いをすると、様々な不具合が生じる
1日1食で肥満や病気になる
1日1食のまとめ食いをすると、肝臓及び脂肪組織での脂肪酸をつくる酵素活性が上昇し、肝臓での中性脂肪やコレステロール合成が増大する。つまり、1日に摂るエネルギー量が同じであっても、食事回数が少なくなるほど体脂肪の蓄積が増加し、肥満を引き起こす。血清コレステロールや中性脂肪が高くなり、生活習慣病を引き起こす要因となる。
朝食欠食によるエネルギー、栄養不足
朝食欠食は脳や神経系へのエネルギー補給にも問題である。1日の基礎代謝のエネルギー代謝量は、脳や肝臓がそれぞれ20%程度になっており、多量にエネルギーを消費する器官である。特に脳はエネルギー源としてブドウ糖を優先して使用する。糖質は、グリコーゲンとして筋肉と肝臓に貯蔵しているが、肝臓に貯蔵される量は約400gと少ない。その為にヒトは1日に3回に分けて食べることで、血糖を保ってこれらの臓器にブドウ糖を供給し続けている。朝食欠食をすると午前中の血糖が上がらず、脳や神経系へのエネルギー供給が不十分になる。 午前中のエネルギー補給だけではなく、他の栄養素の補給も困難となり、体調が悪く不定愁訴が多くなる。
朝食は好きなものを食べるチャンスの時間
また脂肪の代謝には副腎皮質ホルモンであるコルチゾールの分泌が関わっている。コルチゾールは朝に多く、夜間に低く分泌される。つまり朝食は多く食べ過ぎても太りにくいが、夜は太りやすくなるということである。しかし、朝食欠食者は非常に多い。その理由は様々で、時間が無い、面倒くさい、長年の習慣などがあるが、お腹が空かないという事も良く言われている。生活リズムの乱れで、夕食に大量に食べ過ぎていたり、夜食を食べたりすることで、朝にキチンと空腹感をもつことができない場合が多い。
運動時のエネルギー代謝について
- エネルギー代謝のしくみ
- 運動をする際のエネルギー代謝
- 3つのエネルギー供給系
- ATP-PCr系
- 解糖系
- 有酸素系(酸化系)
- 運動時のエネルギー供給系の関与
- 競技スポーツ別5つ
- ①瞬発系競技
- ②持久系競技
- ③球技系競技
- ④審美系競技
- ⑤格闘技競技
- 最後に
エネルギー代謝のしくみ
生体では高エネルギーリン酸化合物のアデノシン三リン酸(ATP)からエネルギーを得ている。このATPはアデニン(プリン塩基)とリボース(五炭糖)が結合してできるアデノシンに無機リン酸(Pi)が3つ結合して構成しており、体内にある全細胞の直接的エネルギー源である。
ATPからPiが1つ分離し、アデノシン二リン酸(ADP)とPiに分解される時に、生体で用いられているエネルギーが放出される。このエネルギーは全身で、熱や体温、消化、内分泌、神経伝達など、生命活動を維持するために常時利用されている。たとえ、安静時であってもATPは常に分解され生命維持の為のエネルギー供給がされている。
続きを読む顔のたるみを改善☆表情筋を鍛える方法
- 表情ジワとは
- 表情筋の機能低下
- 表情筋の鍛え方
表情ジワとは
表情に伴い現れる一過性のシワは、加齢と共に増加する。無表情に戻った時には消えるシワだが、加齢により、無表情時でも皮膚に刻まれた定着シワの事を表情ジワと言う。
表情により皮膚の表面にヨレが生じ、シワが形成される。これは一時の事であるが、繰り返されることで次第にヨレが皮膚に定着し、無表情時でも見られるようになる。これを定着シワとも言う。
続きを読むぶら下がり健康法は身長伸びる?
- 10代のギモン
- 椎間板を延ばして一時的に身長が伸びる
- ぶら下がり伸長法について
- 椎間板が伸びている
- 姿勢が改善されている
- まとめ
10代のギモン
・毎時間背伸びをすれば身長が伸びるって本当ですか?
・正座した姿勢のまま後ろに倒れると身長が伸びるって本当?
・ピーンとのびながら寝ると身長伸びるの?
・鉄棒にぶらさがると身長が伸びるって本当?
・足って引っ張れば本当に長くなる?身長伸びる?
骨と筋肉強化と貧血の相反する現実
- 10代のギモン
- 「かかとをたたくと背が伸びる?」
- 「朝起きてすぐジャンプすると背が伸びる?」
- 骨強化・筋肉強化に良い、かかと落とし
- スポーツ選手のジャンプの刺激による影響
- かかと落とし程度の軽い運動で成長ホルモンが増える事は考えにくい。
- 衝撃によるスポーツ貧血の懸念
- まとめ
10代のギモン
「かかとをたたくと背が伸びる?」
「朝起きてすぐジャンプすると背が伸びる?」
10代女子からの質問
成長期にとって、背を高くしたいという気持ちが高く、色々な噂話を試してみたりしている場合が多いらしい。
「かかと落とし」は有名な10代の女性モデルが実際に毎日やっていて、少なからず世に影響を及ぼした。