美容栄養学の専門家*池上淳子の深堀り情報ブログ

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運動時のエネルギー代謝について

 

エネルギー代謝のしくみ

 


生体では高エネルギーリン酸化合物のアデノシン三リン酸(ATP)からエネルギーを得ている。このATPはアデニン(プリン塩基)とリボース(五炭糖)が結合してできるアデノシンに無機リン酸(Pi)が3つ結合して構成しており、体内にある全細胞の直接的エネルギー源である。

ATPからPiが1つ分離し、アデノシン二リン酸(ADP)とPiに分解される時に、生体で用いられているエネルギーが放出される。このエネルギーは全身で、熱や体温、消化、内分泌、神経伝達など、生命活動を維持するために常時利用されている。たとえ、安静時であってもATPは常に分解され生命維持の為のエネルギー供給がされている。

 

運動をする際のエネルギー代謝

 


運動をする際は、骨格筋(筋肉)において熱産生だけではなく、筋収縮の為のエネルギーも必要になる。安静時よりも多くATPを分解してエネルギーを供給することがなされている。筋肉のATP貯蔵量には限りがあり、安静時、運動時共にATPは常に分解されてADPとなり、またADPをATPへ絶えず再合成する為のエネルギー高級系が存在している。

3つのエネルギー供給系

 


運動によって増えるエネルギー需要(ATP消費量)は主に運動強度によって変化しその消費量(生成されるADP量)に対応できるATP再合成の為のエネルギー供給系が重要になる。
エネルギー供給(ATP再合成)系3種類
①ATP-PCr
②解糖系
③有酸素系

ATP-PCr

 

 

筋肉中にあるATPは非常に少量で、運動時に利用するとすぐになくなってしまう。そこで筋肉中にあるATP以外の高リン酸化合物であるクレアチンリン酸(PCr)がクレアチンとリン酸(Pi)に分解される時に生み出されるエネルギーを用いてATPを再合成するのがATP-PCr系である。これは、酸素を使わず、クレアチンキナーゼ(CK)という1つの酵素のみで行われる反応であり、ATPを最もはやく再合成できる。しかし、筋肉中のPCr含有量も少量であり、ATP-PCr系が最大限使われるのは、7~8秒程度である。

解糖系

 

筋グリコーゲン、血中グルコースをピルビン酸にまで分解する過程のエネルギーを利用してATPが再合成される。この解糖系も酸素を利用しない。ATP-PCr系と合わせて無酸素性エネルギー供給系と言われている。解糖系が最大現動員される場合、32~33秒程度と言われている。
ピルビン酸の生成速度が緩やかな時は、ピルビン酸はミトコンドリアへ取り込まれ、有酸素系の基質として利用される。しかし、速筋(白筋)線維が動員され運動強度が高まると解糖系は活発になり、ピルビン酸の生成速度がミトコンドリアにおけるピルビン酸の処理速度を上回る。すると、ピルビン酸は乳酸脱水素酵素LDH)によって乳酸に変換される。
無酸素性エネルギー供給系の中でも、ATP-PCr系は非乳酸性のエネルギー供給系に対し解糖系は乳酸性のエネルギー供給系である。
速筋(白筋)線維で産生された乳酸は主に2つの経路で再利用される。
①乳酸を産生した筋肉自身で乳酸をピルビン酸に戻してATP再合成の為のエネルギー基質として利用する経路
②筋肉から血液を介して心筋や他の筋線維(遅筋線維:赤筋)あるいは持久的特性をもつ速筋(FOG)、肝臓でピルビン酸に戻されてATP再合成や貯蔵に利用される
この2つの無酸素性エネルギー供給系は短時間に大きなエネルギーを作り出し、ADPをATPに再合成することが可能である。しかしそのエネルギー容量には限界があり長時間に及ぶ運動を継続することは困難である。

有酸素系(酸化系)

 

長時間にわたる運動をする為の筋収縮を時速する為には、筋肉のミトコンドリア内で主に糖や脂肪の燃焼、酸素を用いた有酸素性エネルギー供給系が必要である。これを有酸素エネルギー供給系、酸化系と言う。
ピルビン酸あるいは遊離脂肪酸(FFA)から生成されるアセチルCoAはトリカルボン酸回路(TCA回路)に取り込まれ、ATPが再合成される。一定強度で運動時間を字毒すると、ミトコンドリア内で脂肪をATP再合成のためのエネルギーとして燃焼が増え、脂質の利用が高くなる。有酸素系のATP再合成速度は3つのエネルギー供給系の中でも最も遅い。しかし、体内の糖質や脂質がなくならない限り、ほぼ無限にATPを再合成し続ける事が可能である。低強度の持続する運動における主要なエネルギー供給系になる。

運動時のエネルギー供給系の関与

 


運動時において、これら3つのエネルギー供給系はどう関与しているか見ていく事にする。
今までは、運動開始初期はATP-PCr系が働き、次いで解糖系になり、これら無酸素性エネルギー供給系によるATP再合成が終わった後に、有酸素性エネルギー供給系によるATP再合成がはじまるというような「各供給系は段階的にはたらく」といった考えがなされていた。だから、脂肪燃焼は運動を20~30分持続しないと起こらない、と言われていたのだろう。
しかし現在は、運動開始直後から全ての系が働きはじめ、運動の強度や持続時間によって主として利用されるエネルギー供給系が異なると考えられている。
一定の距離もしくは持続時間を全力で運動する場合
運動強度が非常に高く、数秒という短時間で終了するような運動では最もエネルギー供給速度の速いATP-PCr系による寄与率が高くなる。
運動時間が30秒~3分の場合
解糖系が比較的大きな役割を担う。
運動強度が低くなり、運動時間が長くなる場合
有酸素系の関与が大きくなる

運動時間が10秒程度の高強度運動であっても有酸素系によるエネルギー供給率は10%程度ある。
ラソンのような長時間の運動であっても無酸素系エネルギー供給系のエネルギー供給率は0ではない。

競技スポーツ別5つ

 

 

①瞬発系競技

 


短時間に大きな力を発揮する事を求められている競技である。陸上競技の100m走やウエイトリフティングなどがある。これらの種目における全力運動持続時間は概ね10秒以下であり、主なエネルギー供給系は非乳酸性のATP-PCr系となる。
また90秒程度まで持続することが求められる種目、陸上競技の200m、400mでは、主なエネルギー供給系はATP-PCr系や解糖系の無酸素性エネルギー供給率が高い。

 

②持久系競技

 


一定強度の運動を長時間継続する事を求められている競技で、陸上競技の800m以上、マラソントライアスロン、1000m以上のスピードスケート、100m以上の競技などがあげられる。対象となる種目の運動時間はそれぞれ幅がある。陸上競技800mであれば、解糖系を中心としたものと有酸素系の双方が使われている。例えば、2018年陸上競技800mの日本記録は男子で1分45秒、女子で2分0秒、このときのエネルギー供給系は無酸素性40%、有酸素性60%となる。

③球技系競技

 


ボールを扱うスポーツの総称であるが、様々な種目が含まれている。サッカー、バスケットボール、テニスなどはハイスピードランニングを持続かつ反復することが求められる。野球やバレーボールなどは瞬時に最大のチカラを発揮する事が求められる。また一つの競技の中でもポジションにより変わってくる。サッカーであればフィールドプレーヤーはハイスピードランニングと反復が求められるが、ゴールキーパーは瞬時に最大の力を発揮する事が求められる。
球技は試合時間が長い為、無酸素系のみが主となることは無い。有酸素系の貢献度は高い。

④審美系競技

 


体操、新体操、フィギュアスケートなどの審美系競技では、ウエイトコントロールを行っていることが多いという特徴がある。ウエイトコントロールを行う事で栄養障害が起こりやすく、パフォーマンスに支障をきたす選手も多い。体操競技の演技時間は短時間が多く、瞬発的なパフォーマンス発揮が求められる。その為無酸素系になる。新体操では1~2分、フィギュアスケートでは3~4分程度であり、無酸素系と有酸素性のエネルギー貢献も求められる。

⑤格闘技競技

 


レスリング、ボクシング、柔道、相撲などの格闘技系競技では体格の大きさが競技力の一部となっている。体を大きく強くする事が求められる。また勝負の中で、動きの緩急をつけることが求められることから瞬発的能力が必要であり、無酸素系の役割が大きい。しかし決着がつくまでに時間を要する試合展開になることもあり、そうした競技時間により有酸素系の貢献度が異なってくる。

最後に

 


運動のパフォーマンを上げる為に、栄養管理は必須である。運動やスポーツは行う事によって栄養管理は詳細に異なってくる。最大限の力を発揮する為に、エネルギー供給系を理解し、栄養管理をしていくことが望ましいと言える。

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