美容栄養学の専門家*池上淳子の深堀り情報ブログ

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内臓脂肪が生活習慣病を発症、悪化させるメカニズム

 

 

はじめに

近年、食の欧米化や運動不足による肥満が増加し、ダイエットへの関心は加速する一方である。見た目だけの問題だけではなく、肥満は多くの疾病の元凶となり、健康を維持する為にも、脂肪と病気の関連について、広く知って頂きたいと思う。

生活習慣病は糖尿病、高血圧、脂質異常症などを筆頭に多くの疾病の総称である。これらの疾病の特効薬などは無く、病気になると、対処療法として服薬が続き、終わりが見えない。また食事制限や運動習慣など取り組むべき事柄は多く、身体の不調と常に付き合いながら、制限のある中で生きていかなければならない。

そもそも肥満とは・・・体脂肪が多い状態を肥満と言う。体脂肪が多い事で何故様々な疾病が起こる事になるのかを紐解きましょう。

 

 

2種類の脂肪型肥満

肥満には皮下脂肪型肥満と内臓脂肪型肥満の2種類があり、皮下脂肪型肥満は疾病との関与が低い為、良性肥満と呼ばれている。一方、内臓脂肪型肥満は多くの生活習慣病に関わりを持つ為、悪性肥満と言われている。

内臓脂肪の蓄積から提唱される「メタボリックシンドローム」が注目されている。

 

メタボリックシンドローム(※以下メタボ)の病態と診断基準

(2005年4月メタボ診断基準検討委員会)

①内臓脂肪蓄積(腹腔内脂肪)

エスト周囲径 男性85㎝以上、女性90㎝以上 (内臓脂肪面積100㎠以上)

①に加え②③④の2項目以上

動脈硬化惹起性リポ蛋白異常

高TG(中性脂肪)血症 150㎎/dl以上 かつ/または 低HDL血症 40㎎/dl未満

③血圧高値

収縮期血圧130㎜Hg以上 かつ/または 拡張期血圧85㎜Hg以上

インスリン抵抗性(必ずしも耐糖能異常を伴うとは限らない)

空腹時高血糖 110mg/dl以上

 他に、高尿酸血症などがあげられるが、今後の検討課題とされている。また、全身性易炎症性状態として発ガンや炎症性疾患の発症との関連付けも注目されている。

 

脂肪組織の役割

 脂肪組織はエネルギー貯蔵臓器である。それと共にアディポサイトカインと総称される生理活性物質を放出する内分泌臓器としての役割を担っている。アディポサイトカインには代謝を是正する方向に働く「善玉」と悪化させる「悪玉」の双方がある。

善玉:アディポネクチン:インスリン抵抗性、抗動脈硬化作用

   レプチン:脂肪分解亢進、エネルギー消費亢進、食欲抑制

悪玉:TNF-1(腫瘍壊死因子α):インスリン抵抗性誘発

   レジスチンインスリン抵抗性誘発

   PAI-1(プラスミノーゲン活性化抑制因子):血栓形成促進

   アンギオテンシノーゲン:血圧上昇

 

 

内臓脂肪蓄積肥満が病態を引き起こすメカニズム

 

肥満、内臓脂肪蓄積→アディポサイトカイン産生調節異常(アディポネクチン↓、TNF-α↑、レジスチン↑、アンギオテンシノーゲン↑、レプチン↑、PAI-1↑) →動脈硬化やガン

 

肥満、内臓脂肪蓄積→酸化ストレス↑ →メタボ(インスリン抵抗性、NAFLD、脂質代謝異常、耐糖能異常、高血圧)→動脈硬化やガン

 

肥満、内臓脂肪蓄積→門脈血圧FFA↑→脂肪合成亢進→メタボ(インスリン抵抗性、NAFLD、脂質代謝異常、耐糖能異常、高血圧)→動脈硬化やガン

 

内臓脂肪とアディポサイトカイン(生理活性物質)

 脂肪組織から分泌されるアディサイトカインの異常が内臓脂肪蓄積からインスリン抵抗性等を引き起こすメカニズムとして考えられている。

アディポネクチンはインスリン感受性を改善し、メタボを改善する善玉アディポサイトカインであるが、肥満や内臓脂肪蓄積状態では血中レベルが低下し、アディポネクチン受容体が下がる。

レプチンは視床下部において食欲の抑制や、骨格筋などの組織においてエネルギー消費を促進している。肥満やメタボにおいてはレプチンの血中レベルは増えているが、レプチンの作用部位である中枢神経において、レプチンの働きが出来にくく、レプチン抵抗性の状態となっている為、食事量の抑制やエネルギー消費の増加がみられないと考えられている。

更に、TNF-α、遊離脂肪酸、PAI-1などの悪玉アディポサイトカインが上昇し、インスリン抵抗性を亢進し、その結果、高血圧、糖尿病、脂質異常症を重ね持つメタボを発症させ、更に動脈硬化を起こすリスクが上がっている。

 

内臓脂肪と消化器病態

 内臓脂肪蓄積型肥満に伴う疾患として脂肪肝、胆石症(コレステロール結石)が知られている。内臓脂肪蓄積がNAFLDの発症と関連があると言われている。NAFLDとは飲酒歴が無いにも関わらず、アルコール性肝障害に似た病態で、ウイルス、自己免疫などの病因を除外したものである。単純性脂肪肝から脂肪肝炎、肝硬変までを含む概念であり、NAFLDの中の重症病型がNASHである。BMIとNAFLDの発症に相関関係がある。しかし、ある研究では、BMIが正常範囲内で肥満は無く、糖尿病やアルコール等の関与が無く、原因が不明である症例が全体の20%程あったと言う。例えば、20代の男性でBMIは正常範囲内かやや痩せ気味で、結婚で食生活が変わり2~3㎏体重が増加、それでもBMIは正常範囲内にあるにも関わらず健康診断で肝機能異常があり、肝生検で脂肪肝と診断される例がよくある。このような症例の時、CTスキャンで内臓脂肪面積を調べると内臓脂肪蓄積が認められる。このようにBMIは正常範囲で内臓脂肪蓄積がある症例が多くある。

 

消化器疾患の発症がBMIではなく、内臓脂肪蓄積の観点から検討する必要があるかについての理由

BMIよりも脂肪蓄積の部位の違い、内臓脂肪蓄積型か皮下脂肪型かにより疾患発症のリスクが異なる。

②内臓脂肪は活発な内分泌臓器の側面を有しており、アディポサイトカインを分泌している。

③日本人は人種的に倹約遺伝子あるいは節約遺伝子と呼ばれている。エネルギーを倹約し脂肪を蓄積しやすい遺伝素因を持っている。日本人は飢餓に強いが、飽食時代は、僅かにBMIが増加するだけで内臓脂肪をためこみ、メタボを発症してしまう。欧米に比較してBMI30を超す高度な肥満が少ない日本でも糖尿病、糖尿病予備軍が増加しているのはこういった理由が挙げられる。

 

NASHはNAFLDの重症型であり、脂肪肝と異なり肝硬変へ進展する疾患である。肝細胞癌の発症に繋がる場合もある。NASH症例では、CTスキャンにより測定した内臓脂肪面積が増加しており、血中アディポネクチン値が減少している。アディポネクチンは脂肪組織で分泌されるペプチドホルモンであり、内臓脂肪が蓄積すると逆説的に血中濃度が減少する。内臓脂肪蓄積によるアディポネクチン減少がNAFLDにおける、脂肪蓄積とインスリン抵抗性に関連している事が示唆される。

 

その他

 内臓脂肪蓄積により門脈血を介した遊離脂肪酸の肝臓への流入増加が起こり、その結果、肝細胞でのTG(中性脂肪)合成が促進される。その一方でアポ蛋白Bと脂質を結合させるミクロソーム中性脂肪転送蛋白活性が亢進しVLDLによる血中へのTG(中性脂肪)の汲み出しが亢進している。これによりメタボにおける高TG血症の一部を説明できる。

 

内臓脂肪蓄積によるインスリン抵抗性に基づく高インスリン血症は大腸ガン発症のリスクを上げる。インスリンIGF-1結合蛋白の発言を抑制し、その結果自由なIGF-1分画が増える為に強力な増殖因子であるIGF-1の受容体への結合が促進され、細胞増殖の促進とアポトーシスの抑制が生じるので腫瘍発生に繋がる。

もう一つの説明は、インスリンは増殖因子としての作用があり、高インスリン血症では細胞増殖促進やアポトーシス抑制に傾くことが示唆されてきた。2型糖尿病インスリン治療を受けている場合、大腸ガン発症のリスクが約2倍になると報告されている。

 

大腸腺腫症例において血中アディポネクチン値が有意に低下した。これは内臓脂肪蓄積により血中アディポネクチンが低下したことからインスリン抵抗性が生じ為と思われる。またアディポネクチンはNF-kBのシグナルを抑制する作用があり、低アディポネクチン血症になると炎症が促進され、アポトーシスが抑制される。その為、内臓脂肪蓄積型肥満は全身性易炎症状態と捉えられている。

 

終わりに

メタボ疾患の裏にはアディポサイトカインの異常が存在する。アディポサイトカインは血管壁に炎症を起こし動脈硬化を起こし、臓器の炎症を介して発ガンに関わる可能性も一部指摘されてきている。

内臓脂肪は、つきやすいが、落としやすい脂肪でもある。偏った食習慣、生活リズムの乱れ、運動不足等から蓄積するが、逆を言うと、バランスの良い食事を3食摂り、アルコールや間食などを抑え、早寝早起きなど生活リズムを整え、適度な運動習慣を身につける事で、抑制する事は十分可能である。

健康診断の数値が悪いが、「まだ病院に行くほどではない」とか、「好きな事を我慢したくない」、「面倒くさい」など様々な理由で改善に取り組まない方は多い。それはほとんどの生活習慣病の症状が自覚出来ない事が原因とも思われる。自覚は無くても、病気は確実に進行する。症状が自覚出来るようになると取り返しがつかない事態まで進行している。少しの心がけで、重症予防は十分可能である。また、メタボにならない為の予防としてもバランスの良い食事や生活習慣、運動習慣を身につけて欲しいと思う。

 

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